あれから100年・・・その前に
今年は甘粕事件から丁度100年です。甘粕事件とは、アナキスト大杉栄が愛人伊藤野枝と6歳になる甥とともに憲兵に連行され殺害された事件です。この時の実行容疑者として憲兵大尉甘粕正彦とその部下が軍法会議にかけられ、有罪判決を受けました。この事件は関東大震災直後の混乱の中で起こった事件です。
しかしそれ以前に大杉には、瀕死の重傷を負う事件もありました。それはアナキストとしての主義主張に対する批判からではなく、大杉の素行が原因で起こった事件です。
大杉には「作家」「ジャーナリスト」「社会運動家」等いくつかの肩書はありましたが、それで生計を立てていたわけではなく、女性から経済的援助を受けて生活していました。しかも複数の女性から同時に援助を受けていました。言い換えれば「ヒモ生活」を満喫しながら机上の空論を唱えていたのかもしれません。
自由恋愛主義者でもある大杉は、年上の未亡人と同棲していながら堀保子を強引に内縁の妻にした経緯があります。堀保子は文学者堀成之の妹で、堺利彦の死別した妻の妹でもあり、嫁ぎ先から出戻るという形で堺の家に世話になっていた時に、同じく堺の世話になっていた大杉に半ば強姦されるような形で妻となったのです。当時保子には婚約者がいました。しかもその婚約者は大杉の同志でした。
大杉は入籍しないまま保子と新居を構え、保子の雑誌編集の収入を頼りに生活を始めました。
そしてそこに現れたのが、後に衆議院議員を5期務めることになる新聞記者の神近市子でした。市子も大杉に経済的援助をしていた愛人です。
保子と市子に生活を支えられていた大杉ですが、そこに現れたのが伊藤野枝。三角関係に割り込み、大杉を独り占めした女性です。当時野枝にも夫と二人の子供がいましたが、それを捨てて大杉の下へと走ったのです。そればかりか、雑誌「青踏」の編集長の立場を平塚らいてうから奪い取りながらも、大杉に夢中になるあまり、編集を放棄し休刊もさせました。
不倫泥沼の関係は、「日蔭茶屋事件」が起こったことで終止符が打たれます。四角関係に勝利したのは野枝。しかし乱れた男女関係が世間に知れ渡り、二人は孤立することにもなりました。
「日蔭茶屋事件」とは、1916年に現在の葉山町にあった日蔭茶屋で神近市子が大杉を刺傷した事件です。経済的援助までしていたのに、大杉が新しい愛人野枝に心を移したことから起こった事件です。
市子は殺人未遂で有罪となり服役、妻保子もこれを機に大杉の下から去りました。
大杉の宿命、これはまさに典型的な「ヒモ」になる宿命です。
まず「天貴星」が二つあります。「天貴星」はプライドが高く、お洒落で体裁を気にします。責任感が強く学ぶことが大好きですが、融通は利きません。
この星を二つ持てば、プライドを保つ生き方に徹しようとします。男性であれば本能的に世話をしてもらうことでプライドを保とうとします。女性に世話を焼いてもらうことに何の抵抗もありません。むしろまともに働こうとしても、不器用で正当な報酬を手に入れることは難しくなります。
この場合は、ヒモ的要素が強いだけではなく、月干に干合相手がいます。一番身近な場所に女性がいます。しかも月干に納まる女性は、別の男性とも関係がある女性ばかりです。未亡人や既婚者あるいは婚約者がいる女性。
また月干に女性が納まってくれると、天干は虚気の木性一気格になります。女性がいることで、経済力に恵まれ、経済を主体とした生き方ができるようになります。
「自由恋愛」を唱えていたから、これだけ華やかな男女関係を繰り広げることができたのか・・・それとも・・・。節操がないから「自由恋愛」にすり替えたとも言えるでしょう。
大杉の宿命では、日干支・年干支ともに大運1旬とは天剋地冲になります。波瀾が多く、大運天中殺のような環境の中を生きることになります。
未亡人と同棲し経済的援助を受けていた21歳の時、年上の女性保子と未入籍のまま結婚生活に入ります。この時未亡人と話し合ったのは保子。保子の説得で未亡人は身を引くことになります。
宿命的に大杉と保子の間に縁があったのかなかったのかは分かりませんが、この結婚は逆縁です。波瀾の中だから巡り会える関係です。
また市子も野枝も大運天中殺で大杉と出会っています。しかも両者とも「牽牛星中殺」の時。大運天中殺だから出会えた関係ですが、精神と精神が響き合って結ばれたわけではなく、現実が介在してできた関係です。
反体制的な思想は、育つ環境によって開花されることがよくあります。大杉も父親や親族が軍人でした。本人もその道に進みかけてはいましたが、体制には従えない宿命です。それに加え生まれつきの吃音もありました。その危うさが女性にとっては放ってはおけない存在にもなったのでしょう。
関わった女性たちは皆強い女性ばかりです。ヒモ的な宿命の男性・・・現実の中では生き辛い男性にとっては、強い女性に面倒を見てもらうことこそ、最もプライドを満足させてもらえたのかもしれません。
そして市子も大杉に経済的援助をすることでプライドが満たされていたのでしょう。記者であった市子ですが、男を養うほど余裕があったわけではありません。プライドと意地で大杉を繋ぎとめていたのかもしれません。
ところがそこに割り込んできたのがもう一人の愛人野枝です。大杉の心が野枝に移ったと思い込み、大杉を刺すという行為に及んでしまったのです。野枝に対する嫉妬もありますが、養っていた男の裏切りが許せなかったのも確かでしょう。
見境のない行為でしたが、その後の人生を考えると、運の強さも持っていたということになります。
市子と野枝は大半会になる関係です。同じ日干ということは、最大のライバルにもなります。また大半会になれば、運の奪い合いをします。そして勝ったのが野枝・・・。
野枝は守護神両透で天干連珠格にもなります。天運に恵まれる上格の宿命、それに加え若さと激しい性格もあり、欲しいものは全て手に入れなければ気が済まない性格です。
事件の後、孤立はしたものの大杉を独り占めできたこの時期は、野枝にとっては最も幸せな時期だったのかもしれません。
そして7年後には殺害されることになりますが、この間に5人もの子供を儲け、大杉と活動を共にしながら、執筆や講演で生計を立てていました。
また大杉にも活動の支援者が増え、当時の歴代内務大臣から資金援助もあったようです。
1923年9月16日、大杉栄と伊藤野枝そして遊びに来ていた6歳になる大杉の甥までも憲兵に連行され、その日のうちに憲兵隊構内で殺害されました。そして遺体は井戸の中に捨てられるという異常な事態に・・・。
この時扼殺を実行したのは甘粕大尉。関東大震災後の混乱に乗じて、国を転覆させるような思想を持つ人間を一掃しようと躍起になっていたのです。
甘粕大尉は大半会となる大運。そして年運は「癸亥」。大杉と同様で、大運天中殺のような波瀾の環境の中にいました。そしてまるで嵐の海に大半会となる大杉を引き込み、海の底に沈めるかのような行為に及んだのです。
自分と大半会になる人物は、相反する立場となれば、最も邪魔な人物にもなります。たとえ100年前の環境であったとしても、普通の精神状態ではなかったはずです。甘粕大尉は3年弱服役することになりましたが、その後満州に渡り、満州事変にも関わったそうです。
若い時代に廻る大運天中殺は勢いがあります。正規の大運天中殺以外でも、若い時代に大運天中殺のような現象を起こしていれば、周りは巻き込まれます。そんな波瀾の現象の中にいる者同士の「運」は互いを巻き込み、熾烈な争いを繰り広げているかのようです。そしてその中で起こった事件でした。